情報の非対称性の存在を実証する
2013年10月7日 学校・勉強今日はLi Gan, Feng Huang, and Adalbert Mayer (2010) の"A Simple Test of Private Information in the Insurance Markets with Heterogeneous Insurance Demand."のセミナーに出席。
Rothchild and Stiglitz (1976)の画期的な研究以来、保険市場での「情報の非対称性」の重要性が広く認識されている。
保険会社は保険に加入する人々の属性を観察できない。
例えば生命保険であれば、加入者がどの程度高い死亡リスクに直面しているか、自動車の損害保険であれば、どの程度事故を引き起こす可能性があるかなどなどの情報については、保険会社よりも加入者自身の方がよく知っている、ということ。
こうした属性は、保険に加入する本人以外の者にとっては、結果を見ることによってしか確認しようがない。そこで、そのような情報の非対称性が存在しているならば、
1)保険事故の事後的な発生率と
2)加入者自身が選択した保険による担保範囲
との間に正の相関が存在するはずである、という考え方が出てくるのだが、 実証研究の結果は必ずしもそのようにはなっていない。
このパズルに挑むのが本論文のテーマである。
こうしたパズルの発生原因として、著者らは保険加入者間でリスク回避度の異質性が存在しているため と考える。
すなわち、死亡確率がまったく同一の個人の間でも、子や孫のために遺産を残したいという動機があるかないかで違いがあれば、生命保険にどの程度の掛金を払うかの選択は違うだろう。
そこで、事後的な保険事故の発生率と担保範囲の相関を見るには、、リスク回避度の違いによって条件付けをした上で検定を行うことが必要となる。この「リスク回避度の相違」という「見えない変数」を、アンケート調査結果という代理変数によって推計する試みがFinkelstein and McGarry (2006)によって行われたところであるが、この方法の問題点は、まさにそうした代理変数がどの程度「リスク回避度の相違」を代表しているかに依存している点にある。代理変数でカバーし切れていない情報が担保率に有意な影響を及ぼしている限り、事故率と担保率の相関を検証することができない。
これに対し著者らは、リスク回避度の異質性を離散変数化(discretize)することによって、この異質性を推計式の定数項の相違に帰着させることで問題を巧みに回避する。代理変数がもたらす情報が不完全であっても、それらが保険事故の発生率とは独立であることさえ仮定すれば、2段階最小二乗法の第1段階推計と同様に、偏りのある推計であっても最終的な推計結果の一致性は担保できる。
先行研究と同じデータであっても、推計式の特定化に工夫をすることでより精確な推定を行うことが可能となる好例だと思った。
Rothchild and Stiglitz (1976)の画期的な研究以来、保険市場での「情報の非対称性」の重要性が広く認識されている。
保険会社は保険に加入する人々の属性を観察できない。
例えば生命保険であれば、加入者がどの程度高い死亡リスクに直面しているか、自動車の損害保険であれば、どの程度事故を引き起こす可能性があるかなどなどの情報については、保険会社よりも加入者自身の方がよく知っている、ということ。
こうした属性は、保険に加入する本人以外の者にとっては、結果を見ることによってしか確認しようがない。そこで、そのような情報の非対称性が存在しているならば、
1)保険事故の事後的な発生率と
2)加入者自身が選択した保険による担保範囲
との間に正の相関が存在するはずである、という考え方が出てくるのだが、 実証研究の結果は必ずしもそのようにはなっていない。
このパズルに挑むのが本論文のテーマである。
こうしたパズルの発生原因として、著者らは保険加入者間でリスク回避度の異質性が存在しているため と考える。
すなわち、死亡確率がまったく同一の個人の間でも、子や孫のために遺産を残したいという動機があるかないかで違いがあれば、生命保険にどの程度の掛金を払うかの選択は違うだろう。
そこで、事後的な保険事故の発生率と担保範囲の相関を見るには、、リスク回避度の違いによって条件付けをした上で検定を行うことが必要となる。この「リスク回避度の相違」という「見えない変数」を、アンケート調査結果という代理変数によって推計する試みがFinkelstein and McGarry (2006)によって行われたところであるが、この方法の問題点は、まさにそうした代理変数がどの程度「リスク回避度の相違」を代表しているかに依存している点にある。代理変数でカバーし切れていない情報が担保率に有意な影響を及ぼしている限り、事故率と担保率の相関を検証することができない。
これに対し著者らは、リスク回避度の異質性を離散変数化(discretize)することによって、この異質性を推計式の定数項の相違に帰着させることで問題を巧みに回避する。代理変数がもたらす情報が不完全であっても、それらが保険事故の発生率とは独立であることさえ仮定すれば、2段階最小二乗法の第1段階推計と同様に、偏りのある推計であっても最終的な推計結果の一致性は担保できる。
先行研究と同じデータであっても、推計式の特定化に工夫をすることでより精確な推定を行うことが可能となる好例だと思った。
コメント