先日、とある勉強会でマルコフ・スイッチと合理的期待形成に関する3つの論文のレビューがあった。

・Farmer, Waggoner, and Zha (2009) "Understanding Markov-Switching Rational Expectations Models." Journal of Economic Theory , Vol. 144, Issue 5, 1849-1867.

・Farmer, Waggoner, and Zha (2011) "Minimal State Variable Solutions to Markov-Switching Rational Expectations Models." Journal of Economic Dynamics and Control, Vol. 35, Issue 12, 2150-2166.

・Davig and Leeper (2007) "Generalyzing the Taylor Principle." American Economic Review , Vol. 97, No. 3, 607-635.

経済モデルの構造変化が確定的(Deterministic)ではなく確率的(Stochastic)であるとして、その確率分布がマルコフ連鎖に従う場合の均衡の安定性を定義するものがFarmer et.al (2009)、モデルの実用的な解法を展開するものがFarmer et al (2011)、金融政策当局の反応関数にマルコフ連鎖に従う確率的構造変化が発生する場合の物価の決定性を議論するのがDavig and Leeper (2007)。

レジーム・スイッチには以前から関心があったので、面白かった。

ので、復習もかねて週末は

・Clarida, Gali, and Gertler (2000) "Monetary Policy Rules and Macroeconomic Stability: Evidence and Some Theory." Quarterly Journal of Economics, Vol. 115, Issue 1, 147-180

など、確率的構造変化が取り込まれる以前の物価の決定性(Price Determinacy)に関する論文をもう一度読む。

既によく知られているように、「政策金利をインフレ率の変化よりも大きく反応させる」という「テイラー原則(Taylor Principle)」を満たす金融政策ルールが、物価の決定性を保証する。

このような原則を満たす金融政策運営が行われている限り、Non-Fundamentalなインフレ期待のシフトが防止されるからである。

たとえば具体的に、実体経済の変化に根拠を持たない期待インフレ率の上昇が起きようとしているとしよう。

・この場合、インフレ率が上昇すれば、金融政策当局は政策金利をインフレ率の上昇以上に引き上げて反応することになるので、実質金利は上昇する。

・実質金利の上昇は総需要を抑制し、経済活動を冷え込ませるから、実際にはインフレは起きない。

・つまり、期待インフレ率の上昇と矛盾する結果が生じることになる。

・このことを認識している民間経済主体は決して期待インフレ率を根拠なく変更しない。

Clarida et al. (2000)は、ボルカー・グリーンスパン以前と以後で金融政策当局の政策反応関数を推計し、ボルカー以前の政策反応関数はテイラー原則を満たしていない、したがって物価の不決定性(Indeterminacy)を容認するような政策運営がなされていたと論ずる。1960~70年代の高インフレは、Non-Fundamentalなインフレ期待のシフトに起因するのではないかとの主張である。

これに対し、Davig and Leeper (2007)は非常に興味深い分析を行っている。Farmer他でも展開されているマルコフ・スイッチモデルでは、合理的な経済主体は、経済構造が一定の確率分布に従って変化する場合には、その構造変化をも期待形成に織り込む。

したがって、

・たとえば金融政策ルールが一時的にテイラー原則を満たしていなくとも、将来テイラー原則を満たす強力な金融政策レジームに転換することが予見される場合には、物価の決定性が保証される場合がある。

・この意味で、確率的構造変化が生じない場合よりも緩やかな条件の下で、金融政策が物価の決定性を保証することが可能となる

というのが、DavigとLeeperの主張である。

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